楽天グループはEコマース、銀行、証券、カード事業等、様々な分野で事業を行うコングロマリッドとなっています。しかし、最近手をつけた通信(モバイル)事業が不調で経営は著しく悪化しています。
楽天グループが発表したことし1月から9月までの9か月間の決算は、携帯電話事業で、通信エリアを拡大するための基地局建設の投資がかさみ、最終的な損益が2580億円の赤字となりました。去年1年間の赤字額を上回り、過去最大となっています。
参照:NHK
そんな楽天グループですが、経営資金を調達するために矢継ぎ早に社債を発行し、個人投資家からも資金を集めようとしています。
社債は倒産さえしなけば満期まで保有したら利息がもらえるので、ゼロ金利が続く環境では非常に人気が高い商品となっています。
ソフトバンクの社債も売り出した瞬間に売り切れてしまいますからね。(ソフトバンクグループも経営が厳しいのですが)
今回は以下のポイントについて詳しくお伝えしていきたいと思います。
- 楽天グループが発行している社債の種類とは?
- 楽天グループは倒産しないいのか?財務分析を通じて分析
元本割れもあり得る?楽天グループが発行している社債
まずは現在、どのような社債が発行されているのかみていきましょう。
楽天カードマン債
楽天カードマン債は名前の通り楽天グループの「楽天カード株式会社」が発行する社債です。
楽天が発表している概要は以下となります。
正式名称 | 楽天カード株式会社 第9回無担保社債 |
愛称 | 楽天カードマン債 |
期間 | 5年 |
利率 | 1.65%(税引前)1.3148025%(税引後) |
格付け | A-(R&I) A(JCR) |
発行価格 | 額面100円につき100円 |
買付単位 | 10万円以上、10万円単位 |
特典 | 販売期間(2022/12/5-12/15)に購入した方300名に30,000円相当の楽天ギフトカードを進呈 |
利率は1.65%(税前)となっています。ここで格付けはA-(R&I)とA(JCR)となっていますが、これは非上場会社である楽天カードの格付けとなります。
楽天グループ全体でみると、追ってお伝えする通り、財務内容は安全とは言えないレベルになっていますが子会社は健全なようです。
そのため、楽天カードが倒産するというシナリオはテールリスクと考えた方がよいでしょう。ここで記載されている年率1.6%の利回りは比較的に安全に獲得できると考えてよいでしょう。
ただ、利回りが著しく低いという点はいただけませんね。インフレ率よりも低い利回りとなっているので実質的にはマイナスということになります。
利回りが低くても日本の投資家は安全第一で楽天モバイル債に群がったようです。
安全第一で、よりよい利回りの商品は他にもあるはずなのですが・・・。
以下では安定して高いリターンが見込める魅力的な投資先についてお伝えしていますので参考にしていただければと思います。
【2023年】日本国内のおすすめヘッジファンドを一覧にしてランキング形式で掲載!投資する際に気をつけたいポイントなど網羅的に解説。
大丈夫か?楽天グループ発行のドル建債(格付けは投機的水準)
楽天グループとしてドル建債を発行しています。重要な部分は赤字にしています。
楽天グループがドル建て社債の発行を準備していることが分かった。同社は赤字が続くモバイル部門のてこ入れを進めており、およそ1年7カ月ぶりに海外市場での社債発行に動く。
事情に詳しい複数の関係者によると、楽天Gは2年債を5億ドル(約700億円)発行する方向で投資家の需要を調査している。発行条件は来週初めに決まる見通し。ブルームバーグのデータによると、楽天Gの外貨建て債は2021年4月にユーロ建てとドル建てで発行した永久劣後債以来となる。
楽天Gはモバイル事業の不振が続き、11日に発表した22年1ー9月期決算は最終損益が過去最大の赤字となった。S&Pグローバル・レーティングは9月に楽天Gの発行体格付け「BB+」を格下げ方向の「クレジット・ウオッチ」(CW)に指定。年内にCWを見直す考えを示しており、銀行子会社の新規株式公開(IPO)などで資本性資金を調達し、財務悪化に歯止めをかけられるかが焦点になっている。
ブルームバーグ・インテリジェンスのシャロン・チェン氏らは16日、「社債発行は銀行と証券部門の上場による資金調達が遅れることを示唆する可能性がある」とコメント。年内に非負債性資金を十分に調達できない場合にはS&Pによる格下げのリスクがあることから、「発行コストは高くなり得る」との見方を示した。
S&Pは16日、今回債の債券格付けを発行体格付けと同じ「BB+」とし、CWに指定した。吉村真木子主席アナリストらはリポートで、年内に大規模な資本調達ができないと判断した場合には、今回債の格付けを含む楽天Gの格付けを1段階引き下げる可能性が高いとした。
参照:Bloomberg
赤字となっており運転資金が必要になっているということが読み取れます。楽天銀行の新規上場で資金調達するまで待てないということで逼迫具合が伺えます。
この社債を発行することで負債部門が膨らむので、上場時の評価がわるくなり楽天銀行の上場が遅くなる可能性が指摘されています。
楽天銀行のIPOが失敗すればS&Pによる格付けが現在のBB+から一段階引き下げられBBとなることが見込まれています。
ちなみにS&Pグローバル・レーティングの格付けは以下の階層になっています。
投資適格 | AAA |
AA | |
A | |
BBB | |
BBB- | |
投機的水準 | BB+ |
BB | |
B | |
CCC | |
CC | |
C |
既に投機的な水準のBB+ですがさらに引き下げられる可能性があるということですね。既に投機的な水準ということもあり利率はドル建で年率10.25%というジャンク債の水準になっています。
楽天グループは24日までに、ドル建ての無担保優先債の発行条件を決めた。年限2年のディスカウント債で、利率は年10.250%。割引分を加味した最終的な利回りは12%となる。発行額は総額5億ドル(約700億円)。調達資金はモバイル事業への資本投資や、債務返済を含む運転資金に充てる。
参照:日経新聞
23年1月12日報道:楽天、ドル建て債4.5億ドル追加発行 利率年10.25%
なんと追加でのドル建て社債発行との報道です。11月末に5億ドルの発行を発表し、次いでほぼ同額水準の4.5億ドル発行には驚きです。
楽天グループが総額4.5億ドル(約593億円)のドル建て債を追加発行することが12日、分かった。発行日は1月20日。利率が年10.25%のディスカウント債で、割引分を加味した最終的な利回りは11.76%となる。
楽天Gは2022年11月に5億ドル相当の社債を12%の利回りで発行しており、その追加分として発行する。償還期限(24年11月30日)は前回債にそろえる。楽天Gによると「前回債発行時に投資家の強い需要があり追加募集を決めた」としている。当初は2億ドル程度をめどとしていたが、投資家の需要が強く、発行額を増やした。
「強い需要があり追加募集を決めた」とありますが、資金調達は需要に応じて実施するものではありません・・・。記事後半で述べていますが、やはり事業が相当苦しいのではないでしょうか。
そして、利回りに嬉々として楽天社債を購入する投資家も投資家です。利回りの高さはリスクであり、実際に格付けもダブルBと投機的水準です。
S&Pは22年12月、楽天Gの長期発行体格付けについて、業績や財務内容が想定を下回る可能性が高まっているとの判断から1段階引き下げ、「ダブルB」としていた。携帯電話事業の業績改善が遅れ、資本性資金の調達も進んでいないことを懸念した。
<NEW!>JCRが楽天Gを「A-」に格下げ
ついに日本格付研究所(JCR)も楽天グループの格下げを行いました。
日本格付研究所(JCR)は21日、楽天グループの携帯電話事業の回復には当初の予想より時間がかかるとし、楽天グループの長期発行体格付けを1段階下げて「A-」とした。
JCRは発表資料で、モバイル事業の収益改善には不透明が要素があるとして、格付けの見通しをネガティブにしたと指摘。S&Pグローバル・レーティングスは、昨年末に投機的水準だった同社格付けをさらに1段階引き下げたが、これも同部門の改善が遅れているためだった。
厳しいニュースしか見ていませんが、三木谷氏の胆力が報われる日が来るのかは非常に興味があります。ただ、債券は怖過ぎて買えたものではありませんね。
買うべきか?元本割れも?2023年1月に「楽天モバイル債」を新規発行(売れ行き好調)
新年早々、新たに楽天グループが社債を発行するとのニュースが飛び込んできました。
2022年6月にも楽天モバイル債券は1500億円規模で発行されましたが、今回は2500億円規模と前回を上回る募集です。資金集めに奔走していますね・・・。
楽天グループが個人投資家向けに2500億円の社債を発行する準備をしていることが6日、わかった。楽天Gの個人向け社債の一度の発行額としては最大となる。27日に条件決定する予定で、2年債で利率は2~4%の範囲内としている。
同日、関東財務局に訂正発行登録書を提出した。申込期間は1月30日~2月9日、払込期日は2月10日。償還期限は2025年2月10日までの2年債となる。日本格付研究所(JCR)からシングルAの格付けを27日に取得する予定だ。
愛称は「楽天モバイル債」となる。調達した資金について同社は「携帯電話事業の運転資金などに充てる」としている。
楽天Gは22年12月末に、社債発行時に必要な手続きの一部を簡略にできる3000億円の社債発行枠の発行登録書を関東財務局に提出していた。
22年12月末に3000億円の社債発行枠の発行登録書を関東財務局に提出しており、早速社債を発行しました。概要は以下です。
正式名称 | 楽天グループ株式会社第22回無担保社債(社債間限定同順位特約付) |
---|---|
愛称 | 楽天モバイル債 |
期間 | 2年 |
格付け※ | A(JCR) |
当社販売期間 | 2023年1月30日(月)0:00~2023年2月9日(木)14:30 |
利率(年率) | 3.30%(税引前)2.629605%(税引後) |
利払日 | 毎年2月10日および8月10日(年2回)【初回利払日:2023年8月10日】 |
発行日(受渡日) | 2023年2月10日(金) |
償還日 | 2025年2月10日(月) |
発行価格 | 額面100円につき100円 |
買付単位 | 50万円以上、50万円単位 |
2年債で利率は3.30%%、格付けはJCRよりAを取得。しかし、日経新聞に気になる記述がありました。
楽天Gは携帯電話事業の苦戦が続いている。米格付け会社のS&Pグローバルは22年12月に楽天Gの長期発行体格付けを1段階引き下げ「ダブルB」にした。携帯電話事業の業績改善が遅れる一方で資本性資金の調達が進まず、業績や財務内容が従来の想定を下回る可能性が高まっていると判断したためだ。
楽天Gの長期発行体格付けが格下げされ、ダブルBとなっています。格付けが下がったので、他の格付け機関でAを取りに行くということでしょうか?
基準が異なりAが取得できれば個人投資家は細かく見ないということでしょうか。
筆者としてはS&PでダブルBの社債が利回り3%で良いはずがないと思うのですが、またこの記事の後続で財務分析をした結果からしても、リスクにリターンが見合っていません。
しかし、多くの投資家は安易に同社債を、楽天グループの名の下に、購入してしまうのではないでしょうか。しかし、頭を使わずに安易に資金を動かしていては、どこかで酷い目に遭います。
以下は楽天ホームページで掲載されている内容で、今回のモバイル債は「定期預金より高い金利水準」と謳われています。
格付けBBの楽天モバイル債と大手銀行の2年定期を並べて比較して良いはずがありません。大手銀行の定期預金の格付けはBBなど劣悪なものではありません。
より良い投資先はいくらでもあります。
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高利回りで評判の楽天ドル建債のリスクとは?
12%の高利回りで飛びつきたい楽天のドル建債ですが当然リスクがあります。
あくまでドル建の債券であり為替リスクを負っている
ドル建なので当然、ドル円が上昇すれば評価額は上昇しますし、ドル円が下落すれば評価額は下落します。
2022年にドル円は一時152円を示現しましたが、これは国力の低下ではなく日米の金利差拡大によるものです。
金利が高い通貨は保有するだけで金利がつきますからね。2022年は米国がインフレに対応するために米中央銀行のFRBが利上げした結果、金利は急騰していきました。一方、日銀は基調的なインフレは発生していないとしてゼロ金利を継続しました。
結果として日米金利差は拡大してドル円は日米金利差に沿う形で急騰していきました。
しかし、インフレとFRBの利上げにより経済に腰折れの兆しが見えてきており、来年の景気後退を見越して長期金利は下落を開始し現在ドル円は135円まで押し戻されています。
この傾向はまだまだ続き、景気後退の度合い次第では再び110円代に戻る可能性は十分あります。
ドル建で12%のリターンが得られたとしても、円建ではマイナスになっているという可能性は十分あります。
倒産したら元本が全額毀損するおそれがある
当然、社債なので会社が倒産したら元本が最悪、全額返ってこない可能性もあります。企業は倒産する前に従業員や取引先への支払いを行います。
そして、いよいよ資金が枯渇して倒産となった時に返済順位が最優先されるのが銀行の借入金です。銀行の借り入れを返済した上で残った資金で社債、株式の順番で分配されます。
ただ、倒産するような企業は基本、借入金の返済も全額できない企業が多いです。倒産となったら社債の投資家としては全損を覚悟したほうがよいでしょう。
この手の話は、クレディスイスのAT1債の話を彷彿とさせますね。
3月にスイス金融大手のクレディ・スイスがライバルのUBSに買収される際、170億ドル(約2兆2,600億円)相当のクレディ・スイスのAT1債(その他AT1債)が無価値化されたことは、世界の投資家、金融市場に大きな衝撃を与えた。
大手金融機関が発行するAT1債は、普通社債よりも金利が高い一方でリスクは低い安全商品と考えられ、低金利環境下で積極的に購入されてきた。クレディ・スイスのAT1債無価値化によってそうした神話が崩れたため、AT1債の金利は一気に跳ね上がり、プレミアムが乗ってしまったのである。
倒産の可能性を検証
それでは楽天グループの倒産の可能性について見ていきましょう。以下は楽天の「売上高」「営業利益」「純利益」の推移です。
2022年は9ヶ月分の実績になりますが純損失は2500億円となっています。年間を通してみると純損失は3000億円を超えてくることが想定されます。
追記:通年は3630億円の純損失となりました。
では実際、倒産する可能性はあるのでしょうか?
詳しくみていきたいと思います。
バランスシートは総負債比率が高い
まずは現在の資産と負債の状況を表したものがバランスシートです。決算補足資料にもとづくと楽天グループ全体のバランスシートは以下の通りとなっています。
わかりにくいですが単位は10億円単位となっています。
この状況をまとめると以下となります。
総資産:19兆7459億円 (内:現金4兆5712億円)
総負債:18兆7341億円 (内:楽天銀行の顧客の預金7兆9564億円)
純資産:1兆118億円
銀行預金を負債から除いても純資産の10倍の負債を抱えていることになります。
現状、借入金合計3.9兆円に対して現金が4.5兆円あるので問題はありません。
しかし、これはあくまで現状の話です。ここからさらに資金が流出していけばどうなるか分かりません。
そこでお金の流れであるキャッシュ・フロー計算書を見ていきましょう。
キャッシュフローは借り入れに頼った自転車操業状態
では実際にお金の流れはどうなっているのでしょうか?
以下は営業CFと投資CFです。
9ヶ月終わった時点で4500億円の営業CFのマイナスとなっています。純損失2500億円よりも大きなキャッシュの流出が営業活動によって発生しています。
さらに投資CFも8300億円のキャッシュアウトとなっています。つまり、営業CFと投資CFの合計で1兆2800億円もの巨額の資金流出が発生しています。
これを支えているのが銀行からの借入金です。以下の通り、今期1兆4000億円の借り入れを実施してキャッシュの流出を穴埋めしています。
事業と投資ででていった資金を銀行からの借り入れで工面しているという状況で健全ではありません。
いつまでも銀行がかしてくれるとは限りませんからね。返済見通しが厳しいと銀行が判断したら、逆に返済を要求してくる可能性もあります。
現在の営業CFが来年も継続するようですと、本格的に倒産も視野にはいってきます。毎年5000億円以上のキャッシュの流出があり、1兆円の純資産しかないのであれば2年で債務超過に陥るからです。
非常に危険な状態であると考えることができるでしょう。
まとめ!結局楽天が発行している社債は買うべきなのか?
楽天カードマン債については、楽天カード自体の財務健全性は高いので利回りは低いものの安全性は高いといえます。
しかし、楽天グループとして発行しているドル建債は見た目の利回りは高いですが、今後のドル円の下落を考えると大きな為替リスクを負うことになります。
また、本格的に数年のうちに経営改善を行わないと倒産も視野に入るレベルとなっているので、元本を毀損するリスクの高い投資対象であるということができます。
以下で筆者が紆余曲折あった投資経験を活かしてまとめたおすすめの投資先についての記事がありますので、ぜひ参考にしてみてください。
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