これまでも様々な新興国株式銘柄を紹介してきましたが、今回はタイの株式投資を取り上げたいと思います。
タイといえば東南アジアと聞くと真っ先に頭に思い浮かべる人も多いですよね。
そんなタイの現状と今後の経済成長の見込みについて書いていきたいと思います。
ポイント
- 経済成長率は低下基調で1人あたりGDPは中所得国の罠に直面する水準
- 安い人件費を背景として原料を輸入して自動車などの組み立て工場として活躍している
- 政治は軍事政権から民主政権に移行しているが安定しているとは言い切れない
- 自国に高付加価値サービスが少ないため国の発展に比して企業の利益は膨らんでいない
- 結果として株価は停滞しているにも関わらず割安でもないという状態になっている
タイの概要
まずは、具体的な話に入る前に、タイの概要を把握しましょう。
タイ・一般概要
国・地域名 | タイ王国 Kingdom of Thailand |
---|---|
面積 | 51万3,115平方キロメートル(日本の約1.4倍) |
人口 | 6,659万人(2020年、出所:内務省) |
首都 | バンコク(タイ語名:クルンテープ・マハナコーン) 人口567万人(2020年、出所:内務省) |
言語 | タイ語 |
宗教 | 人口の約95%が上座部仏教、その他イスラム教(4%)、キリスト教(0.6%)など |
引用:JETRO
タイ・経済概要
項目 | 2021年 |
---|---|
実質GDP成長率 | 1.6(%) |
名目GDP総額 | 506.47(10億ドル) |
一人当たりの名目GDP | 7,809(ドル) |
鉱工業生産指数伸び率 | 5.6(%) |
(備考:鉱工業生産指数伸び率) | 期中平均値 |
消費者物価上昇率 | 1.2(%) |
(備考:消費者物価上昇率) | 期中平均値 |
輸出額 | 269,588(100万ドル) |
(備考:輸出額) | FOB |
対日輸出額 | 27,086(100万ドル) |
(備考:対日輸出額) | FOB |
輸入額 | 229,633(100万ドル) |
(備考:輸入額) | CIF |
対日輸入額 | 38,656(100万ドル) |
(備考:対日輸入額) | CIF |
経常収支(国際収支ベース) | △10,582(100万ドル) |
貿易収支(国際収支ベース、財) | 39,955(100万ドル) |
金融収支(国際収支ベース) | △2,140(100万ドル) |
直接投資受入額 | 11,422(100万ドル) |
(備考:直接投資受入額) | フロー、ネット |
外貨準備高 | 245,997(100万ドル) |
(備考:外貨準備高) | 金、その他含む。期末値 |
対外債務残高 | 197,743(100万ドル) |
(備考:対外債務残高) | 期末値 |
政策金利 | 0.50(%) |
(備考:政策金利) | 期末値 |
対米ドル為替レート | 32.16(バーツ) |
(備考:対米ドル為替レート) | 期中平均値 |
引用:JETRO
タイの経済成長について
タイの経済を具体的に見ていきましょう。
タイのGDP成長率は近年緩やかになってきています。新興国の成長率という観点でいうと低成長であるという感じですね。
重要なのは今後の見通しです。
現在タイの1人あたりGDPは8000ドルと中所得国の罠に陥る直前の水準となっています。
「中所得国の罠」とは、多くの途上国が経済発展により一人当たりGDPが中程度の水準(中所得)に達した後、発展パターンや戦略を転換できず、成長率が低下、あるいは長期にわたって低迷することを指す。これは、開発経済学でゆるやかに共有されている概念であり、その端緒は世界銀行が07年に発表した報告書にあるとみられている。
参照:内閣府
今後、中所得国の罠をこえていけるかは中国のように高付加価値の産業を確立できるかという点にかかっています。
→ 躍進を続ける中国経済!崩壊が囁かれているが実態は?特徴と今後の見通しを含めてわかりやすく解説。
タイの人口ピラミッド
まずタイの人口動態です。以下の人口ピラミッドをご覧ください。
タイは高齢化が進んでいます。他新興国と異なり、労働人口も「ASEANで唯一」下降基調となっています。
関連
経済の潜在成長率を構成する「人口」「GDP成長率」がタイは新興国なのにマイナスに寄与しており、
投資を考える際に魅力的な市場にはすでに見えなくなっています。
救いなのは、中国と同様、「農村」の余剰人口が「都市」の労働人口へ転換している最中であることです。
つまり、「ルイスの転換点」をまだ迎えておらず、タイは現状、農村人口が40%を占めており、まだこの農村人口の転換余地があります。
ルイスの転換点:
1979年ノーベル経済学賞の受賞者であるイギリスの経済学者アーサー・ルイスによって提唱された開発経済学における人口流動モデルの概念で、工業化の過程で農業部門から工業部門への労働力の移行が進み、農業部門の余剰労働力が底をついた段階のこと。
ルイスの転換点以降は、農業部門からの労働力の流入が無くなり、雇用需給が締まり、労働力の不足状態となるため、賃金率の上昇が起き、経済成長のプロセスにおける重要な転換点となる。
引用:ルイスの転換点
タイの産業構造とは?
では現在のタイのGDPの産業別構成の推移を見ていきましょう。
農業と工業の比率が減って、第三次産業の比率が上昇しています。経済が進化していることを示しています。
各産業の特徴をまとめたものが以下となります。
アジアにおける自動車生産の中核拠点として機能しています。
外務省の情報を参照すると、主要な輸出輸入製品は以下の通りです。
ポイント
- 主要輸出品:コンピューター・自動車・機械器具・農作物
- 主要輸入品:機械器具・原油・電子部品
つまり。タイは日本と似た構造で、原料(資源)を輸入し、最終製品を「組み立てる」産業となっています。
中国の賃金が高騰し、タイが製造拠点として世界の工場(東洋のデトロイト)となっているのです。
タイの貿易相手を見てみましょう。
輸入は日本が中国に次いで2位となっています。
主要なのは自動車や二輪車の部品を日本から輸入、タイで組み立てて、国内で販売、または海外に輸出していることが読み取れますね。
タイで有名なのはいすゞ、日野自動車、ヤマハ、ホンダ辺りでした。
最も注目すべきは輸出の割合にしめるASEAN割合の高さですね。
ASEAN自体が中国に大きく依存している共同体なので、中国が倒れるとタイも共倒れになるという構造にどうしてもなってしまいます。
政治は混迷が続いている
政治面の話を少しすると、タイは2001年に就任したタクシン首相の不正献金疑念や脱税疑念により2006年に退陣に追い込まれました。
その後、軍部によるクーデターが発生しました。2014年からは軍事政権のもとでプラユニット氏が暫定首相として政権をにぎっていました。
軍事政権が政権を握る状態が続いていましたが2019年に総選挙を経て市民に選ばれた民主的な首相としてプラユニット氏が選出されています。
しかし、閣僚が頻繁に入れ替わっており、まだまだ安定政権と言える状況ではありません。
国の発展には政権の安定が必要不可欠です。このままプラユニット氏が安定政権を確立できるか注目していきたいと思います。
タイの株式市場への投資は魅力的?
では本題にはいっていきたいと思います。タイの株式市場への投資は魅力的なのでしょうか?
SET指数は停滞を続けている
タイの日経平均にあたるSET指数は以下の通り、この10年近く停滞しています。
バンコクSET指数(Bangkok SET Index)は、タイ証券取引所で取引される株式の時価総額加重平均指数。1975年4月30日を基準日とし、その日の時価総額を100として算出。*当指数のDESの2ページ目で計算される指数PEは、ブルームバーグが算出。
算出:Bloomberg
PERやPBRから考えると特段割安とはいえない
以下は世界の株式市場のPERとPBRの比較です。
地域・国 | PER (株価収益率) |
PBR (株価純資産倍率) |
配当利回り | 時価総額 |
---|---|---|---|---|
タイ | 16.5 | 1.7 | 2.82% | 1619億ドル |
全世界 | 16.3 | 2.7 | 2.08% | 61.6兆ドル |
先進国 | 16.8 | 2.8 | 1.99% | 55.2兆ドル |
エマージング国 | 13.2 | 1.9 | 2.92% | 6.4兆ドル |
ヨーロッパ | 13.1 | 2 | 2.86% | 10兆ドル |
アジア・パシフィック | 14.4 | 1.4 | 2.97% | 6.8兆ドル |
BRICs | 12.3 | 1.7 | 2.9% | 3.6兆ドル |
日本 | 15 | 1.3 | 2.59% | 3.7兆ドル |
米国 | 19.1 | 4.2 | 1.51% | 36.5兆ドル |
中国 | 11.3 | 1.3 | 2.23% | 2.1兆ドル |
インド | 32 | 3.8 | 1.29% | 1.1兆ドル |
マレーシア | 14.5 | 1.5 | 4.16% | 1222億ドル |
フィリピン | 18.5 | 1.7 | 2.05% | 547億ドル |
SET指数は横ばいだったにも関わらず、PERが割安ではないということは企業収益が増加していないことを意味します。
これはどういうことでしょうか?
新興国は経済が成長しているので当然企業収益が伸びていくものだと考えられた方が多いと思います。
しかし、タイのような国では成長して所得が増えた分で日本の自動車を買ったり、AppleのiPhoneを購入します。
つまり、先進国の企業収益の増加に貢献しているのです。まだ自国に高付加価値産業がなく自国の企業の収益を伸ばすことができない段階といえます。
楽天証券やSBI証券で購入できるタイのおすすめ個別銘柄
タイは他のASEAN諸国と同様にADRという仕組みをつかって個別銘柄を購入することができます。
CPオール
タイ全土でセブンイレブンブランドのコンビニを展開を展開するのがCPオールです。
親会社は食品や小売流通業をコアビジネスとする華僑系財閥グループ、チャルーン・ポーカパン(CP)。
日本のセブンイレブンとライセンス契約を結び着実に事業規模を拡大させています。
売上は上昇していますが、コロナで原材料費や輸送費が上昇していることもあり直近は利益は凹んでいます。
コロナ以降株価は低迷していますが、これから経済再開するにむけて大きく回復することが期待されます。
BTSグループ
BTSグループは1968年に Tanayong (タナヨン)という社名で不動産開発会社として事業を開始。
1992年にバンコク初の大量高速輸送システムBTSスカイトレインの30年契約を落札したことが事業上の大きな転機となった。
スカイトレインは1999年に商業運行が開始され、以降BTSグループの主要事業となっています。
現在はM&Aを繰り返し、大量輸送、メディア、不動産の4つを行うコングロマリッドとなっています。
業績は芳しくないのですが、これはコロナで輸送がとどこおっていることや、不動産に対する海外の投資マネーが流入していないことが原因と考えられます。
今後、同じく経済再開にともなって勢いよく回復していくことが期待できると考えています。
まとめ
今回のポイントをまとめると以下となります。
ポイント
- 経済成長率は低下基調で1人あたりGDPは中所得国の罠に直面する水準
- 安い人件費を背景として原料を輸入して自動車などの組み立て工場として活躍している
- 政治は軍事政権から民主政権に移行しているが安定しているとは言い切れない
- 自国に高付加価値サービスが少ないため国の発展に比して企業の利益は膨らんでいない
- 結果として株価は停滞しているにも関わらず割安でもないという状態になっている
以下では新興国で2022年から魅力的と考えられるファンドをランキング形式でお伝えしています。