これまでも様々な新興国株式市場について解説してきましたが、今回はロシアを取り上げたいと思います。
ロシアといえば今はウクライナ戦争渦中ではありますが・・・戦争というイベントドリブンで投機を考える人が後を絶ちませんが、長期投資面では今は手を出すべきではないでしょう。
来る次の機会に向けて、今回は準備の意味合いも含め大まかなロシアのファンダメンタルズ情報をまとめておきたいと思います。
ロシアの概要
まずはロシアの今後の成長可能性を把握するために概要を押さえておきましょう。
ロシア一般概要
国・地域名 | ロシア連邦 RUSSIAN FEDERATION |
面積 | 1,712万5,000平方キロメートル(日本の約45倍) |
人口 | 1億4,617万人(2021年1月1日現在、出所:ロシア連邦国家統計局) |
首都 | モスクワ 人口 1,265万5,050人(2021年1月1日現在、出所:同上) |
言語 | ロシア語、他各民族語 |
宗教 | ロシア正教、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教、仏教等 |
公用語 | ロシア語 |
主要民族 | ロシア人、タタール人、ウクライナ人、バシキール人、チュバシ人等 |
主要都市 | サンクトペテルブルク、ノボシビルスク、エカテリンブルク、ニジュニノブゴロド、カザン、チェリャビンスク、オムスク、サマラ、ロストフ・ナ・ドヌ、ウファ、クラスノヤルスク、ペルミ、ボロネジ、ボルゴグラード |
引用:JETRO
人口は日本の45倍の土地を持ちながら、約1億5000万人は少ないですね。ソ連時代は2億8000万人と2倍の水準でしたが、今はとても人口密度が低いです。
ロシア経済概況
項目 | 2019年 | 2020年 | 2021年 |
実質GDP成長率 | 2.2(%) | △2.7(%) | 4.7(%) |
名目GDP総額 | 109,608(10億ルーブル) | 107,390(10億ルーブル) | 131,015(10億ルーブル) |
一人当たりの名目GDP | 11,517(ドル) | 10,115(ドル) | 11,273(ドル) |
鉱工業生産指数伸び率 | 3.4(%) | △2.1(%) | 5.3(%) |
消費者物価上昇率 | 3.0(%) | 4.9(%) | 8.4(%) |
失業率 | 4.6(%) | 5.8(%) | 4.8(%) |
(備考:失業率) | ILO基準 | ILO基準 | ILO基準 |
輸出額 | 424,468(100万ドル) | 337,105(100万ドル) | n.a. |
(備考:輸出額) | 通関ベース | 通関ベース | |
対日輸出額 | 11,354(100万ドル) | 9,056(100万ドル) | n.a. |
(備考:対日輸出額) | 通関ベース | 通関ベース | |
輸入額 | 244,348(100万ドル) | 231,668(100万ドル) | n.a. |
(備考:輸入額) | 通関ベース | 通関ベース | |
対日輸入額 | 9,023(100万ドル) | 7,114(100万ドル) | n.a. |
(備考:対日輸入額) | 通関ベース | 通関ベース | |
経常収支(国際収支ベース) | 65,336(100万ドル) | 33,949(100万ドル) | 122,040(100万ドル) |
貿易収支(国際収支ベース、財) | 129,038(100万ドル) | 91,848(100万ドル) | 189,827(100万ドル) |
金融収支(国際収支ベース) | 62,617(100万ドル) | 36,192(100万ドル) | 122,813(100万ドル) |
直接投資受入額 | 31,975(100万ドル) | 9,479(100万ドル) | 39,826(100万ドル) |
(備考:直接投資受入額) | フロー、ネット | フロー、ネット | フロー、ネット |
外貨準備高 | 554,359(100万ドル) | 595,774(100万ドル) | 630,627(100万ドル) |
(備考:外貨準備高) | 金を含む、期末値 | 金を含む、期末値 | 金を含む、期末値 |
対外債務残高 | 491,327(100万ドル) | 467,042(100万ドル) | 479,962(100万ドル) |
(備考:対外債務残高) | 期末値 | 期末値 | 期末値 |
政策金利 | 6.25(%) | 4.25(%) | 8.50(%) |
(備考:政策金利) | 期末値、1週間物入札レポ金利 | 期末値、1週間物入札レポ金利 | 期末値、1週間物入札レポ金利 |
対米ドル為替レート | 64.74(ルーブル) | 72.11(ルーブル) | n.a. |
(備考:対米ドル為替レート) | 期中平均値 | 期中平均値 |
引用:JETRO
一人当たりGDPが11,273ドルとちょうど中所得国の罠に差し掛かった段階です。
今後の産業のシフトが経済成長には大きな影響を及ぼしますね。
20年間にわたる実質10%台の高度成長の結果、中国の一人当たりGDP1
は11年には7,800ドルに達している。現在の実質経済成長率は7%台にまで低下しており、一人当たりGDPの伸びは11年に5%程度に低下しているが、単純計算によれば、仮にこうしたペースの成長が続けば17年には1万ドルに達することになる。ここ数年の成長率の低下と、1万ドルといった高度成長経路の区切りから、中国の成長力をめぐっては、「中所得国の罠」を回避できるのかが問われる状況になっている。
ロシアの経済成長率
ロシアの経済成長率をみていきましょう。
ロシアの経済の過去の推移として、1990年代の混乱を乗り越え、2000年代は「構造改革」で成果を出し、同時に「資源価格の高騰」に乗り、一時は10%、その後も5%-8.5%の経済成長をしていました。
2008-2009年の世界金融危機と資源価格の下落によりマイナス8%の経済低迷を経験しますが、世界的金融緩和で復活するも、2017年にして漸くプラス成長に。
その後はCovid-19パンデミックの影響で一時は原油需要が萎みましたが、その後さらなる世界的金融緩和で2021-12に4.9 %を記録しました。
しかし、2022年はご存知の通りウクライナ戦争が勃発し、IMFは以下のような予測を立てています。
The IMF said in January that the Russian economy might grow 2.8% in 2022 and 2.1% in 2023.
It said in the latest WEO that global economic growth might be 3.6% in 2022, down from the 4.4% forecast in January and 6.1% growth in 2021. The global economy could rise 3.6% in 2023 also.
これを日本語訳にすると以下の通りです。
IMFは1月、ロシア経済が2022年に2.8%、2023年に2.1%成長する可能性があると発表した。
最新のWEOでは、世界経済の成長率は2022年に3.6%と、1月の4.4%、2021年の6.1%予想から低下するかもしれないと述べている。2023年の世界経済も3.6%上昇する可能性がある。
ロシアの経済成長率は寧ろ4%成長した昨年よりも成長するとの観測が出ています。
話は長くなるのでざっくりですが、EUへの原油輸出がブロックされロシアの経済成長はプラスどころかマイナスで一生戻ってこれないのではないかとの観測が流れましたが、実際のところ中国へ輸出しており、ロシア経済としてはマイナスインパクトはあるものの、想定されていたよりも傷は浅くなっています。
しかしながら、寧ろロシアからの供給を断ってしまったEU諸国が原油供給の確保に苦しむなど、自滅している形となっており、現代では戦争は政治面と経済面の折り合いが非常に難しく、寧ろ筆者はヨーロッパ諸国がまだ続くインフレに耐えられるのだろうか、不況回避不可能なるも、その後の舵取りは大丈夫なのだろうかと心配になっている次第です。
ロシアの人口ピラミッド
毎回同様ですが、今後の経済成長の指針となるロシアの人口ピラミッドをみていきましょう。
フィリピンやインドのような新興国と同様の理想的な形とはなりません。30-34歳/55-64歳の若年層の労働人口が一番大きな割合を占めています。
25歳以下が縮小しており、厳しいですね。「人口の減少」は投資を考える際に手を出してはいけない市場の代表格となりますから、ロシアはその傾向があるということは頭に入れておきましょう。
戦争云々の前に、成長ドライバーの欠けた国であり、新興国投資の対象になることはないかもしれません。原油に魅力を感じるのであればロシアではなく原油そのものを買えばいいのですから。
ロシアの産業構造
上記では経済成長をみてきましたが、続いてロシアの産業構造をみていきましょう。
上記の経済成長率について解説した時に「資源価格」の上昇と下落の話をしましたが、ロシアが抱える課題がまさに資源価格に頼った経済環境です。
ロシアといえば資源、ロシアの会社と提携するのであれば石油、といったようなビジネスになりますし、ロシア自体が世界有数の天然資源大国でもあることから仕方ない部分はあります。
露・ウクライナ戦争の状況
露・ウクライナ戦争は、ロシアとウクライナの間で進行中の戦争です。2022年の事象と思っている方も多くいますが、実は長年の歴史がある戦争であり、実際の戦闘が始まったのが2022年なのです。
露・ウクライナ戦争は、ウクライナ尊厳革命後の2014年2月に始まり、最初の8年間は、ロシアによるクリミア併合(2014年)、ウクライナとロシアが支援する分離主義者との間のドンバスでの戦争(2014年~)のほか、海難事故、サイバー戦争、政治的緊張がありました。
2021年後半からロシアとウクライナの国境でロシア軍が増強されたことを受け、2022年2月24日にロシアがウクライナへの本格的な侵攻を開始し、紛争は大きく拡大したのです。
あまりにも説明をしていては終わらなくなってしまいますし、我々は投資家なので、投資すべき国かどうかの判断をするにあたり、「材料不足」は投資対象になり得ません。つまり、投機対象としてのロシアは魅力的に映るトレーダーも存在するかもしれません。
しかし、筆者は堅実な新興国投資を目指しており、その意志には沿わない国です。
株式市場もチェックしておきましょう。
ロシアの株式市場
ロシアの代表株価指数であるRTS指数を見ていきます。
当然、ウクライナ侵攻もあり各国よりビジネスが離れていった結果、2022年の2月に株式市場は大暴落しています。
しかし、上記で「ロシアは原油」とひたすら申し上げてきました。なんと世界中の原油需要でロシアの株式市場も連動し回復に向かっています。
もう二度と投資できない対象となるはずが、-48%(暴落ではありますが)で留まっています。
今後、戦争の状況次第では株式市場に好機が生まれる可能性が無きにしも非ずです。(投資家は感情を抜きにして利益獲得に向き合う必要があります)
しかしながら、2022年は今後米FRBの急速な金融引き締めで、不況を回避し経済を安定させるというソフトランディングを目指しているものの、それは不可能ではないかという観測が多く、筆者自身も不可能だと思っています。
もし米国発の世界不況が起こるとすれば、原油の需要など消えて無くなってしまいますので、その時がロシア株式市場の終わりの日なのかもしれません。
ロシア株式市場を真剣に見るのは、2023年以降(そして戦争状況次第)かと思われます。戦争が早く終わることを祈ります。
ロシア投資信託・ETF
おすすめは市場環境が悪いのでひとつもありませんが、RTS市場連動の投資信託はNEXT FUNDS ロシア株式指数・RTS連動型上場投信があります。
ボトムフィッシングとして、買う人もいるのかもしれませんが、下値の方向に動く可能性の方が高いと筆者は思っています。
買わなくて大丈夫です。
まとめ
ロシアの株式市場の状況を経済とともに見てきました。
当然ですが、今はもっと良い投資対象がありますので、そちらに傾倒してください。