これまでも様々な新興国株式銘柄を紹介してきましたが、今回はミャンマーの株式投資を取り上げたいと思います。
ミャンマーはASEANの中でも低所得の部類に入り、女性政治家、アウン・サン・スーチンさんで有名ですよね。
それではミャンマー経済の観点から株式市場への投資を検討してみましょう。
はじめに
ミャンマー投資についてのポイントは以下です。
- ミャンマーは経済成長が加速するASEANの中でも今後発展していくと言われる、CLMV諸国の一角を担っている。
- ミャンマーの一人あたりGDPは1,400USDであり、中所得国の罠といわれる10,000USDまでまだまだ距離がある。
- 最近まで中国は、一人当たりGDPが1,000USDを越えたあたりでGDP成長率も10%以上を記録してきので、ミャンマーも一人当たりGDPが1300USDという水準を考えると、もうひと頑張りして欲しい成長率。
- 若年層から高齢層に人口が減少していく理想に近い人口ピラミッド型であり、まだまだミャンマーは労働集約型の産業で成長していける段階にある。
- 需要項目をみると、財貨・サービスの輸入はネガティブであり、消費支出、総固定資本形成の比率を見れば内需がミャンマーの経済成長を支えていることがわかる。
- 輸出入先は完全に中国に依存した貿易となっており、中国経済が停滞したら経済影響を大きく受けてしまうことが容易にわかる。
- ミャンマーの株式市場は2016年3月に取引開始となり、極めて新しい市場といえる。上場企業数は6社のみ(ラオスは5社)、時価総額はラオスの2分の1程度。
- まだ外国人が投資できない環境なので手我々外国人は手が出せない状況。
それではじっくりデータを見ていきましょう。
ミャンマー概要
まずは他新興国と同様、ミャンマーの一般概要、経済概要を見ていきましょう。
ミャンマーの一般概要
国・地域名 | ミャンマー連邦共和国 Republic of the Union of Myanmar |
面積 | 67万6,578平方キロメートル(日本の1.8倍) |
人口 | 5,707万人(2021年7月推計値、出所:米国中央情報局) |
5,114万人(2019年インターセンサル・サーベイ、出所:ミャンマー入国管理・人口省) | |
首都 | ネーピードー |
言語 | ミャンマー語、シャン語、カレン語、英語 |
宗教 | 仏教(87.9%)、キリスト教(6.2%)、イスラム教(4.3%)、ヒンドゥー教(0.5%)など |
引用:JETRO
ミャンマーの人口は5,700万人、面積は日本の1.8倍である68万㎢となっており、日本よりも人口密度の点では下回りますね。宗教は仏教がやはり主流となります。
ミャンマー経済概要
項目 | 2018年 | 2019年 | 2020年 |
実質GDP成長率 | 6.41(%) | 6.75(%) | 3.19(%) |
名目GDP総額 | 66.7(10億ドル) | 68.8(10億ドル) | 81.3(10億ドル) |
一人当たりの名目GDP | 1,272(ドル) | 1,302(ドル) | 1,527(ドル) |
(備考:一人当たりの名目GDP) | 推計値 | 推計値 | 推計値 |
鉱工業生産指数伸び率 | n.a. | n.a. | n.a. |
消費者物価上昇率 | 6.87(%) | 8.83(%) | n.a. |
失業率 | n.a. | n.a. | n.a. |
輸出額 | 16,704(100万ドル) | 18,112(100万ドル) | 16,999(100万ドル) |
(備考:輸出額) | 通関ベース(FOB) | 通関ベース(FOB) | 通関ベース(FOB) |
対日輸出額 | 1,391(100万ドル) | 1,436(100万ドル) | 1,241(100万ドル) |
(備考:対日輸出額) | 通関ベース(FOB) | 通関ベース(FOB) | 通関ベース(FOB) |
輸入額 | 19,352(100万ドル) | 18,596(100万ドル) | 17,586(100万ドル) |
(備考:輸入額) | 通関ベース(CIF) | 通関ベース(CIF) | 通関ベース(CIF) |
対日輸入額 | 696(100万ドル) | 502(100万ドル) | 552(100万ドル) |
(備考:対日輸入額) | 通関ベース(CIF) | 通関ベース(CIF) | 通関ベース(CIF) |
経常収支(国際収支ベース) | △2,561(100万ドル) | 68(100万ドル) | n.a. |
貿易収支(国際収支ベース、財) | △4,132(100万ドル) | △2,850(100万ドル) | n.a. |
金融収支(国際収支ベース) | △2,459(100万ドル) | △2,547(100万ドル) | n.a. |
直接投資受入額 | 1,768(100万ドル) | 1,736(100万ドル) | n.a. |
(備考:直接投資受入額) | フロー、ネット | フロー、ネット | |
外貨準備高 | 5,347(100万ドル) | 5,468(100万ドル) | 7,228(100万ドル) |
(備考:外貨準備高) | 金を除く | 金を除く | 金を除く |
対外債務残高 | 41,347(100万ドル) | 44,751(100万ドル) | n.a. |
政策金利 | 10.00(%) | 10.00(%) | 7.00(%) |
(備考:政策金利) | ディスカウント・レート | ディスカウント・レート | ディスカウント・レート |
対米ドル為替レート | 1,429.81(チャット) | 1,518.26(チャット) | 1,381.62(チャット) |
(備考:対米ドル為替レート) | 期中平均値 | 期中平均値 | 期中平均値 |
引用:JETRO
ミャンマーは経済成長が加速するASEANの中でも今後発展していくと言われる、CLMV諸国の一角を担っています。CLMVは開発格差が出ないよう、ASEAN統合イニシアティブにも支援されている地域でもあるんですね。かなり手厚いです。
ASEAN統合イニシアティブ
ASEAN統合イニシアティブ(IAI: the Initiative for ASEAN Integration)は,ASEANの後発加盟国であるカンボジア,ラオス,ミャンマー,ベトナム(CLMV)に対する開発格差の是正等の支援を通じ,更なる地域統合を促進することを目的としたASEANのイニシアティブ。 (注)2000年11月の第4回ASEAN非公式首脳会議で立ち上げ(議長を務めたシンガポールのゴー・チョクトン首相より提起)。
CLMVに支援を行うのは,ASEANの対話国(日本,中国,韓国,オーストラリア,ニュージーランド,インド,EU,米国,カナダ)及びドイツに加え,ASEAN6か国(ブルネイ,インドネシア,マレーシア,フィリピン,シンガポール,タイ)。
引用:外務省
ミャンマーの一人あたりGDPは1,400USDであり、中所得国の罠といわれる10,000USDまでまだまだ距離があるので、今後の経済成長が見込まれます。直近インフレ率は7.0%と高いですが、経済成長の圧力が強く、需要が拡大し、価格が上昇していると言えます。
さて、投資家目線で、今後のミャンマーは引き続き経済成長をしていくのか、見ていきたいと思います。
株式市場成長の礎となるミャンマーの今後の経済成長は?
未来を予想するにはまずは過去の傾向を知る必要がありますので、ミャンマーのこれまでの経済成長率を見ていきましょう。
引用:World Economic Outlook Database, October 2017を元に作成
2000年代前半は10%以上の高成長をしてきましたが、リーマンショックの時期から経済成長は若干スピードを落としています。またCovid-19パンデミックの影響で2020年は前年比マイナス10%まで落ち込みました。
ちなみに、202/2022年度は前年比+1に留まると世界銀行が予測を発表しています。しばらくミャンマーは投資対象としては手を出さない方が良い対象なのかもしれませんね。
世界銀行は1月26日、「ミャンマー経済モニター」を公開し、2021/2022年度(2021年10月~2022年9月)の実質GDP成長率が前年度比1%になるとの予測を発表した。前年度は、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大(第1波、第2波)で弱体化した経済に、2021年2月以降の政治的混乱と新型コロナウイルス感染拡大の第3波により、マイナス18%と予測していた。2021/2022年度は、マイナス成長は回避するものの、引き続き同国の経済は厳しい情勢が続く見通しだ。
ミャンマーの一人当たりGDPは1400ドルですが、2021年、2022年はパンデミックの影響で悪化しているものと思います。前年比マイナスですからね。
ミャンマーの人口ピラミッド
次に、今後の国の経済発展を見極めるための大事な指標の一つである、人口ピラミッドを見ていきましょう。
上図の通り、若年層から高齢層に人口が減少していく理想に近いピラミッド型であり、まだまだミャンマーは労働集約型の産業で成長していける段階にあるので、若年層の人口が多いのは非常に重要なことです。
以下はミャンマーの人口ですが、すでに人口増加率が低迷を始めており、6000万人近くの人口から大幅な成長は見込みにくいです。人口は経済成長の強靭なドライバーになりますので、ここは少し期待外れですね。
ミャンマーの経済成長の鍵となるのは?
ミャンマーの産業構造別GDPを確認してたいところですが、パンデミックにより壊滅しすぎて各産業が完全に縮小してしまっているので考察不可能です。
ちなみに2016年時点での産業別GDP構成は以下の通りでした。
引用:CENTRAL INTELLIGENCE AGENCYデータを元に筆者作成
農業分野がこれまでは高かったミャンマーですが、主に製造業とサービス業が経済成長の中心となっていました。知的産業で稼ぐ構造になり、このまま順調に経済成長をしていくと思いきや水を刺された形になってしまいましたね。
ミャンマーの輸出入(貿易)の内訳は?
ミャンマーの貿易を占める主要な輸出入産品は以下になります。
輸出入額が分かりやすく減少しており、経済成長どころではないですね。輸出入先は以前から変わらず中国に依存した貿易となっています。
中国経済が停滞したら経済影響を大きく受けてしまう構造となっていることが容易にわかります。東南アジア各国の貿易をみると、やはり中国依存の側面が強いですね(地理的に仕方ないのですが)
ミャンマーの株式市場について
さて、本題です。とはいえ最後の項目になってしまったのですが、それには理由があります。
ヤンゴン証券取引所で取引本格開始は2016年と新しい
ミャンマーの株式市場(ヤンゴン証券取引所)は2016年3月に取引開始となり、極めて新しい市場といえます。2016年3月にFMIが、5月にティラワ経済特区(SEZ)開発のミャンマー・ティラワSEZホールディングス(MTSH)、その後ミャンマー市民銀行、第一プライベート銀行が2017年に上場しました。
2016年8月26日、ヤンゴン証券取引所の3番目の銘柄として、ミャンマー市民銀行が上場を果たした。この日の取引では、値幅制限いっぱいの7,800チャットのストップ高。上場後に急上昇する傾向は先に上場した投資会社のファースト・ミャンマー・インベストメント(FMI)など2銘柄と共通するパターンで、ミャンマー人投資家の新規上場株への関心の高さを示した。
同銀は、1991年にミャンマー商業省傘下の銀行として設立。2016年3月期の税引き前利益は約70億チャット(約5億9000万円)。国内21店の店舗網を今後5年間で50店に広げる計画だ。
株価指数をチャートでチェック
上記はMYANPIX(ミャンマー代表株価指数)ですが、2016年から右肩下がりを継続し、2020年のコロナショックすら特に大きな値動きがないような指数となっています。
現在旺盛な外国人投資家は存在せず、国内投資家ばかりです。黎明期というやつですね。
彼らは当然株式市場ができて間もないということで、株式取引の基礎を知らず、取引開始後MYANPIXが半分に下がったことで撤退する人が続出しています。
当然といえば当然なのですが、需給が活発な市場のみに資金は流入するものであり、もう少し株式投資をするためのインフラの整備が必要なフェーズと言えます。投資するにはまだ時期尚早ですね。
どこの証券会社でミャンマー株・ETFは買える?
ミャンマー株は直接は購入できません。
しかし、例えばミャンマー関連株はシンガポール取引所やタイ証券取引所などで購入は可能です。
ミャンマー不動産の開発会社であるヨマ・ストラテジック・ホールディングス(ティッカー:YOMA)、ミャンマーで建設事業をおこなっている建設・不動産開発会社、イタリアン・タイ デベロップメント (ティッカー:ITDn)などは楽天証券で購入可能です。
ミャンマーで大成功している会社は基本的には海外上場を目指しますよね。資金が集まるのは国内証券所ではない、というのが新興国の実態です。
しかし、ミャンマーの今後の経済先行き不安を考えると、上記の会社もまた投資意欲がそそられないのが本音です。もう少し待ちたいですね。
まとめ
ミャンマーには株式市場は存在しているが、まだまだ黎明期であり投資参加するにも博打になるのでおすすめはできません。
ただし、経済の成長力は強く、数年後にはさらに魅力的な国となり、また株式取引のインフラが整う可能性が高いです。
本格的に外国人投資家が参入する時期の初期段階に投資参加することで十分すぎる果実が取れると思います。では現在魅力的な市場はどこか?という話は以下の記事でしていますので、興味があれば参考にしてみてください。