これまでも様々な新興国株式銘柄を紹介してきました。
今回はマレーシア株式投資を取り上げたいと思います。
マレーシアは東南アジア諸国の中でシンガポールに次ぐ発展国です。
そんなマレーシアについて以下の点を中心にお伝えしていきたいと思います。
- 経済の今後の見通しは明るいのか?
- マレーシア株の状況はどうなっているのか?
- 投資するとするならどのような銘柄がいいのか?
- マレーシア株より魅力的な新興国株式市場は?
マレーシア概要
まずは国の概要と経済概要をみていきましょう。
マレーシア一般事項
国・地域名 | マレーシア Malaysia |
---|---|
面積 | 33万290平方キロメートル(日本の0.87倍) |
人口 | 3,239万人(2018年、出所:マレーシア統計局) |
首都 | クアラルンプール 人口177万人(2021年、出所:マレーシア統計局) |
言語 | マレー語、英語、中国語、タミール語 |
宗教 | イスラム教、仏教、ヒンドゥー教、キリスト教など |
公用語 | マレー語 |
マレーシア経済概要
項目 | 2021年 |
---|---|
実質GDP成長率 | 3.1(%) |
名目GDP総額 | 373(10億ドル) |
鉱工業生産指数伸び率 | 7.2(%) |
消費者物価上昇率 | 2.5(%) |
失業率 | 4.6(%) |
輸出額 | 299,129(100万ドル) |
対日輸出額 | 18,173(100万ドル) |
輸入額 | 238,216(100万ドル) |
対日輸入額 | 17,793(100万ドル) |
経常収支(国際収支ベース) | 12,904(100万ドル) |
貿易収支(国際収支ベース、財) | 41,043(100万ドル) |
(備考:貿易収支(国際収支ベース、財)) | 財のみ |
金融収支(国際収支ベース) | △7,160(100万ドル) |
直接投資受入額 | 54,906(100万リンギ) |
(備考:直接投資受入額) | フロー |
外貨準備高 | 104,101(100万ドル) |
(備考:外貨準備高) | 金を除く |
対外債務残高 | 1,070,267(100万リンギ) |
政策金利 | 1.75(%) |
(備考:政策金利) | 期末値 |
対米ドル為替レート | 4.18(リンギ) |
(備考:対米ドル為替レート) | 期末値 |
参照:JETRO
マレーシアの経済の略歴と現在の成長率
マレーシアは、1957年にイギリスから独立以降、与党連合の「統一マレー国民組織」による長期安定政権が続きました。
1981年に就任したマハティール首相による日本の経済成長を模倣したルックイースト政策を掲げ他新興国に先駆けて外資誘致や輸出増加で成功を収めました。
現在でも経済成長は衰えず、ASEAN主導国としての地位を固めまています。以下はマレーシアの経済成長率をグラフで表したものです。
マレーシアはGDP成長率が5%前後で安定しています。
2022年時点で一人当たりGDPも11,399USDと、中所得国の罠である一人当たりGDPが10,000USDを突破しています。
アジア各国をみるとASEANの中ではシンガポールは別格として水準としてはトップですね。中国より少し低いという状況です。
現状のまま経済成長は進むのか?
というのが今後のマレーシアへの投資を考える上では大事な指標です。
マレーシアの人口ピラミッド
国の経済が発展していくかどうか、検証するためにまず重要となる、人口ピラミッドをみていきましょう。
理想的なピラミッド型とはなりませんが、15歳〜34歳までの若い労働人口が大きなボリュームを占めてます。
今後の20年-30年間は労働人口が減少せず、消費も見込まれるので継続的な経済成長を予測できます。
労働人口を担保するのが、国の教育レベルになるのですが、マレーシアは小中学校、高校の教育システムが「競争社会」であり、結果的に教育水準は他新興国に比べると高いです。
マレーシアの東大とされるマレーシア大学は、世界大学ランキングでは日本の東京大学、京都大学より下ですが、一橋大学、慶応義塾大学より上位にランクインしています。
つまり教育レベルは高いことが実感できますね。今後の経済発展を考える上では大きなプラス材料となります。
マレーシアGDPの今後の成長
次にマレーシアのGDPの成長を支える、国民の需要と国・企業の供給の側面を見ていきましょう。
まず左グラフの需要面ですが、マレーシアの経済成長は「民間消費」(黄色)が大きなポーションを占めています。
これは国内経済が堅調であり、消費が活発に行われている内需主導型の成長であり、他要因に依存しない安定した構造であるといえます。
次に右グラフの供給面ですが、サービス業(灰色)が成長を索引している「成熟した産業構造」となっています。
一人当たりGDPが高くなり賃金上昇により製造業が中国に移った後、サービス産業に転換しても経済成長していることが読み取れます。
実際以下の通り、2000年から2020年にかけてサービス業のしめる割合が大きくなっています。
農林水産業 | 製造業 | サービス業 | |
特徴 |
|
|
マルチメディア関連の情報産業育成に注力 |
動向 |
|
2030年までのEVの普及に注力。国産メーカーのプロトンはEV製造を検討 | 外資規制の緩和でガイシが参入可能なサービス業が拡大 |
マレーシア主要の貿易産品と貿易相手国
上述の通り、GDP成長に占める貿易の寄与度は小さいにも関わらず、貿易産品を生産するために働いている人口はまだまだ多くなっています。
貿易が立ち行かなくなると、マレーシア国内の経済にも大きな影響が出ます。以下はマレーシアの貿易相手国と輸出品目です。
【輸出品目と輸出国内訳】
グラフを見てみると、原油・石油製品・パーム油など資源に当たる輸出品目の比率が約29%と、マレーシアは資源偏重型となります。
パーム油はアブラヤシの果実から得られる植物油つまりは食用油ですね。
そしてマレーシアの輸出先・輸入元は中国・香港・シンガーポールが最も比率を占め中国依存型となりますね。
中国経済に依存した経済状況といえるでしょう。
→ 躍進を続ける中国経済!崩壊が囁かれているが実態は?特徴と今後の見通しを含めてわかりやすく解説。
マレーシアの政治と課題
マレーシアの政治の話に移ります。
1957年の独立以来、一貫して国民戦線が政権を担ってきましたが、2018年に希望連盟が過半数を制しムヒディン・野心新首相が就任。
2021年8月にヤーコブ首相となったものの、下院でわずかに過半数を上回る程度です。
与党は連立となっており不安定な政治情勢が続いています。
国の経済が成長するためには指導力のある政治基盤の強い首長の存在が必要です。
習近平やモディ首相がよい例ですね。マレーシアの政治は堅固とはいえないのはマイナス点です。
マレーシア株は割安なのか?クアラルンプール総合指数から考える
マレーシア版の日経平均ともいえるクアラルンプール総合指数の株価推移は以下となります。
経済は成長しているにも関わらず、この10年間で停滞どころか値を下げているのが特徴的ですね。
クアラルンプール総合指数と日経平均株価の株価の比較は以下となります。
全然成長していない日本の日経平均の方が圧倒的に優れたリターンとなっています。
これにはカラクリがあります。
新興国が経済成長すると国民の所得があがります。上がった所得で自国の企業の製品を購入すれば自国企業の収入は上昇します。
しかし、自国産業は育っていないため、日本の自動車や電気製品、米国のiPhoneなどのハイテク製品を購入します。
つまり経済成長分を先進国の企業の収益に吸い取られているのです。結果として自国企業の収益が上昇していないのです。
実際、株価が停滞しているにも関わらず、PERはそこまで割安とはいえない水準となっています。
地域・国 | PER (株価収益率) |
PBR (株価純資産倍率) |
配当利回り | 時価総額 |
---|---|---|---|---|
全世界 | 16.3 | 2.7 | 2.08% | 61.6兆ドル |
先進国 | 16.8 | 2.8 | 1.99% | 55.2兆ドル |
エマージング国 | 13.2 | 1.9 | 2.92% | 6.4兆ドル |
日本 | 15 | 1.3 | 2.59% | 3.7兆ドル |
米国 | 19.1 | 4.2 | 1.51% | 36.5兆ドル |
中国 | 11.3 | 1.3 | 2.23% | 2.1兆ドル |
マレーシア | 14.5 | 1.5 | 4.16% | 1222億ドル |
筆者が魅力的と考えているのは中国です。
中国は中所得国の罠の水準である1人あたりGDP10,000ドルを明確に超えてきています。
マレーシアとは異なりアリババやテンセントなどのテックジャイアントをはじめとして自国産業が発展しています。
更に中国は米国の製品やサービスをある程度規制しているので、成長の果実を自国に還流させることが可能となります。
詳しくは以下でお伝えしていますのでご覧ください。
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マレーシアの魅力的な個別銘柄
マレーシアにはADRという仕組みを利用して米国株式市場を通して楽天証券やSBI証券で購入することができます。
三井物産も投資するIHHヘルスケア
IHHはアジアで最大の病院経営社であり総合商社三井物産も投資をおこなっています。
投資を行なっている理由については以下の通り解説しています。
最新の予測では、2018年から2025年の間にASEAN主要6カ国(マレーシア、シンガポール、フィリピン、ベトナム、タイ、インドネシア)で医療費が76%も上昇するとの説もあり、対策が急務です。三井物産は、アジア10カ国で約80病院、1万5千床以上を展開するIHHの筆頭株主として、病院を中核にさまざまなイノベーションを推進。ヘルスケアエコシステムの構築を進めています。
アジアで先進医療のニーズが高まる一方で、その市場は数多くの国ごとに細分化されており、大規模な事業展開が難しいという問題があります。各国それぞれに医療制度も異なるため、国を越えて病院グループを展開するグローバルなプレイヤーが生まれにくいのです。たとえば米国のように、少数のメジャープレイヤーの寡占状態にある巨大市場とは大きく異なります。
そんな中、10カ国で約80病院を展開するIHHの存在感は際立っています。シンガポール、マレーシア、インド、トルコを中心に、近年では中国、そして中東の国々まで事業を拡大。まさに、アジアのヘルスケアを牽引しているのです。
参照:三井物産
IHHの業績は以下となります。コロナで歪んではいますが、基本的には売上は上昇基調にあります。
株価は2021年からの業績の進展によって上昇の兆しを見せています。期待が持てる企業といえるでしょう。
マレーシア最大の銀行「マラヤン・バンキング」
新興国において銀行は経済の血液である資金を供給する心臓です。
国の発展にかけるのであれば銀行は欠かせません。マレーシア最大の銀行はマラヤン・バンキングです。
コロナで明確に落ち込みましたが、今ではコロナ前の水準を売上と利益共に超えてきています。
株価も下値を切り上げてきており上昇基調に転じつつある局面ですね。
まとめ
今回のポイントをまとめると以下となります。
ポイント
- 経済成長率は中程度の4%台
- 経済水準はシンガポールを除けばASEANトップで中所得国の罠のラインを超えている
- 自国の自動車産業があるものの、まだ高付加価値産業へのシフトは中国に比べると不十分
- 政治は安定しているわけではない
- 自国産業が育っていないので自国企業の利益の伸びはゆるく株価は停滞している
正直、あえてマレーシアの株式市場に投資する妙味は薄いと考えます。
筆者としてはマレーシアとはことなり自国産業が発展している中国への投資を実行しています。
以下では筆者が投資している中国ファンドを含めて紹介していますのでご覧ください!