新興国株式投資をする上で、投資対象となる国の分析は不可欠となります。
これまでも様々な新興国株式銘柄を紹介してきましたが、
今回は「インド」の株式投資を取り上げたいと思います。
インドといえば経済成長著しく現在のモディ首相が就任してから本格的に発展を遂げていますね。
私が出張でインドにいった5年前は道路も全く整備されておらず、
国民が取っ組み合いの喧嘩を始めたりと無法地帯でカルチャーショックを受けました。
そんなインドですが、
「今後もインドの経済成長は続いていくのか?」
「株式投資をするに適した国なのか?」
という点を投資家の目線から解説していきたいと思います。
ポイント
- 人口は14億人(2022年時点)と、大国中国に次ぐ二位であり、労働人口数、総人口が今後も増え続け、2060年時点で17億5000万人となることが予想されている。
- 理想的な人口ピラミッドの形であり今後の経済発展のポテンシャルが高い。
- 全体としての教育水準はまだまだ低い実態がありますが、富裕層の子息は確りと教育されている。
- かつてはイギリスの植民地であったことから、英語を公用語とし、欧米の外資系ともパートナーシップを組みやすい点がある。
- 産業別GDPは不動産・金融・その他のサービス業が中心となっており、経済成長に寄与している。
- 民間消費=個人の消費が拡大しており、内需の拡大による経済成長をしている。
- 新興国にしてはまだまだ総固定資本形成比率が低い。
- 税をうまく国民から徴収できておらず若干財政には不安がある
- 経常収支はプラスに転じている
- 政治は長期安定政権であるモディ首相のもと非常に安定している
インド株式市場への投資は魅力的なのか?おすすめ銘柄を含めてわかりやすく解説する!
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それでは本記事の内容に入っていきます。
インドの概要
まずは大まかにインドを把握するために、国の概要を見ていきましょう。
インド一般概要
国・地域名 | インド India |
---|---|
面積 | 328万7,263平方キロメートル(日本の約8.8倍) |
人口 | 12億1,019万人(2011年センサス)※センサスは10年ごとに発表 |
首都 | デリー 人口1,898万人 |
言語 | ヒンディー語、英語、ウルドゥー語、ベンガル語 |
宗教 | ヒンドゥ教(79.8%)、イスラム教(14.2%)、キリスト教(2.3%)、シーク教徒(1.7%)、仏教(0.7%)など(2011年センサス) |
公用語 | ヒンディー語(連邦公用語)、英語(準公用語) |
引用:JETRO
インド経済概要
項目 | 2020年-2021年 |
---|---|
実質GDP成長率 | △7.1(%) |
(備考:実質GDP成長率) | 2021年基準 |
名目GDP総額 | 3,177(10億ドル) |
(備考:名目GDP総額) | 2021年基準 |
一人当たりの名目GDP | 2,282(ドル) |
鉱工業生産指数伸び率 | △8.4(%) |
(備考:鉱工業生産指数伸び率) | 2020年基準(コロナによる) |
消費者物価上昇率 | 6.2(%) |
失業率 | 7.1(%) |
輸出額 | 290,761 (100万ドル) |
対日輸出額 | 4,435(100万ドル) |
輸入額 | 391,059(100万ドル) |
対日輸入額 | 10,925(100万ドル) |
経常収支(国際収支ベース) | 24,011(100万ドル) |
貿易収支(国際収支ベース、財) | △108,504(100万ドル) |
金融収支(国際収支ベース) | △22,589(100万ドル) |
直接投資受入額 | 54,928(100万ドル) |
(備考:直接投資受入額) | フロー、ネット |
外貨準備高 | 610,864(100万ドル) |
(備考:外貨準備高) | 金を含む |
対外債務残高 | 485,081(100万ドル) |
政策金利 | 4.00(%) |
(備考:政策金利) | レポ・レート、期末値 |
対米ドル為替レート | 74.23(ルピー) |
(備考:対米ドル為替レート) | 期中平均値 |
引用:JETRO
インドの魅力的は他にはない人口の多さです。
人口は13億9200万人(202年時点)と大国中国に次ぐ二位となります。
インドが中国と大きく異なる点は、労働人口数、総人口が今後も増え続け、2060年時点で17億5000万人となることが予想されていることです。
末恐ろしいポテンシャルです。
インドの人口と高い教育水準!世界のトップ企業の経営者にもインド人が君臨
今後の経済発展を分析するために重要な指標となる、
インドの人口ピラミッドを見てみましょう。
かなり理想的な人口ピラミッドの形をしています。
日本と同じ「壺型」となってしまった中国と比べると、
人口ピラミッドを見るだけでも今後の経済発展のポテンシャルが高いことが分かります。
現在インドの一人当たりGDPは3177ドル(202年)と驚きですが、ASEANではカンボジアの次というレベルです。
まさに最貧国であり、新興国の経済成長が一旦頭打ちとなる「中所得国の罠」である10,000USDまでかなり距離があります。
中所得国の罠
自国経済が中所得国のレベルで停滞し、先進国(高所得国)入りが中々できない状況をいいます。
これは、新興国が低賃金の労働力等を原動力として経済成長し、中所得国の仲間入りを果たした後、自国の人件費の上昇や後発新興国の追い上げ、先進国の先端イノベーション(技術力等)の格差などに遭って競争力を失い、経済成長が停滞する現象を指します。一般に中所得国とは、一人当たりの国内総生産(GDP)が3千ドルから1万ドル程度の国を指し、実際に1万ドルに達した後に本状況に陥る国や地域が多いです(1万ドルから2万ドルには中々達しない)。
また、過去(歴史)を振り返ると、低所得国から中所得国になることができた国は多いですが、一方で高所得国の水準を達成できた国は比較的少ないと言えます。
引用:中所得国の罠
労働人口が多くても「教育水準」が低いと経済成長に寄与しにくくなるのですが、
インドの教育水準は高く、安心感があります。
当たり前ですが、貧しい国なので教育を受けられない国民も多く、
全体としての教育水準はまだまだ低い実態がありますが、
富裕層の子息は確りと教育され、
インド工科大学卒の学生は入社1年目から「年俸が2000万円」という水準で欧米で雇用されています。
例えば、インターネットの世界で覇権を握っている米GoogleのCEOはインド人のサンダー・ピチャイ氏(Sundar Pichai)です。
また、ウィンドウズ95で一気に世界で成り上がったマイクロソフトのCEOもインド人であるサヤト・ナデラ氏(Satya Nadella)となります。
インド勢の活躍が凄まじいです。
他にもIT企業ではなく、金融でもインド勢は活躍を見せています。
例えばドイツ銀行のアンシュ・ジェイン氏(Anshu Jain)はドイツ人のユルゲン・フィッチェンと共同頭取を務めています。
数え上げればキリがありませんが、
ペプシコ、サンディスク、NOKIAなど、世界でも名だたる企業のトップに就任している例が多いです。
数学という一つの教科をとってもインドはレベルが高く、東京大学の学生も太刀打ちできない水準でしょう。
さすがは「0」という数字を発明した国というところです。
インドは近年IT教育に力を入れておりIT専門学校への1年の学費は日本円で10万円程度ととても安く、インド人はプログラミングを習得しやすい環境にあります。
日本だと2ヶ月15万円のオンラインコースなどが限界ですもんね。それだけITへの意識が高いです。
そのインドの教育水準の高さは、中東の富裕層をも引き寄せるほどであり、年々インドの高等教育は発展しています。
私自身、教育水準のさらなる向上が将来インドが米国をあっさり抜き、大国としてのし上がるための決定的な要素だと感じています。
労働集約型の限界点である一人当たりGDP10,000USDの「中所得国の罠」に陥ることなく、
イノベーションや知識集約型の産業にスムーズに移行していくことを期待しています。
インドの言語・世界に於ける優位性
インドは他アジア新興国と異なる圧倒的優位性があります。
それが国の位置と使用言語です。
インドは過去に「イギリス領インド帝国」としてイギリスの植民地であったことから、
英語を公用語とし、欧米の外資系ともパートナーシップを組みやすい点があります。
「レアジョブ」や「DMM英会話」などフィリピン人講師を起用したオンライン英会話が日本でも人気ですよね。
私も以前に一度利用したことがありましたが、
フィリピン大学(日本でいえば東京大学)の学生が英語を丁寧に教えてくれ、
発音も綺麗、文法も正確であり、優秀層の英語はとにかくレベルが高いと思いました。
インドの驚異的な経済成長率
まずはインドのGDP成長率をみてみましょう。
引用:World Economic Outlook Database,を元に筆者作成
非常に勢いのある経済成長率を誇っており、中国の経済成長をも上回ります。
コロナではマイナスに陥った経済成長率も急激に回復しています。
インドの産業構成別GDP
インドの産業別GDPの成長について見ていきたいと思います。
上の2つめの表を見て欲しいのですが不動産・金融・その他のサービス業が中心となっており、経済成長に寄与していることが理解できます。
サービス業も不動産・住宅が最も大きな割合を占め、個人の消費が大きいことが読み取れますね。
非常に良い形をしていると思います。
インドの需要別寄与度の推移
インドの需要項目を見てみましょう。
黄色のデータを見て欲しいのですが「民間消費」の寄与率が高いことがわかります。2020年度はコロナで例外的に個人消費がしぼんでいますが一時的です。
民間消費=個人の消費が拡大しており、
つまりは内需の拡大による経済成長をしています。非常に好循環と言えますね。
以下のデータは日本の高度経済成長期の消費財保有比率ですが、
インドは今後このような推移を辿る可能性が高いとも言えます。
インドの投資(総固定資本形成)・純輸出
また先程のデータに戻ります。
青色のインドの総固定資本形成を見てみましょう。新興国にしてはまだまだ比率が低いことがわかります。
東南アジア諸国のように時に新興国諸国は投資偏重型の成長になりがちです。
しかし、インドに関しては国民の民間消費がメインのドライバーとなって成長を牽引している健全な経済構造となっています。
インドの経常収支
経常収支は外国との取引においての利益・損失を見る指標の一つですが、インドはどうでしょう。
左の表で注目していただきたいのが、2010年台の経常収支の大幅な赤字です。
当時は国内消費・外資資本の増加が活発で、資本財の輸入増加・原油価格上昇が発生したことが要因です。
しかし、2014年より経済政策としてインフレ率を下げ(次項参照)、同時に原油価格も下落し、貿易赤字が縮小、結果的に経常収支も改善しました。
結果的に現在は経常収支をプラスに引き上げることに成功しています。
インドのインフレ率
インドの経済成長率は高く、インフレ率が高くなっていないか気になるところです。
以下の同国のインフレデータと政策金利の推移はご覧ください。
2019年までインフレ率は2%-4%程度と新興国の中では安定的に推移していました。
しかし、これは世界的なことなのですがコロナで積極的な財政支出と利下げを実行したことでインフレ率は急上昇しています。
今後は政策金利引き上げが意識されるので株式市場にはネガティブですね。
インドの財政収支
インドの課題といえば、GDP比における「債務」の大きさですね。
主要なアジア新興国の債務比率の平均が45%を推移する中、インドに関しては70%の債務比率であり、毎年赤字が継続しており、拡大傾向にあります。
赤字が拡大している原因としては「国の税収」に対する低いGDPです。
以下の通りインドはGDPのわずか15%程度しか税金を徴収できていません。
インドは少し問題があり、納税をしっかりする国民が5%を切ります。
これには理由があり、例えば日本では103万円の収入を超える人は納税義務があり、国民の大半が税金を納めています。
しかしインドは課税所得が高く設定されており、所得税の納税者が2~3%しかいません。現在、見直しが検討されています。
以下はインドの外国人の国債保有率です。
4%を切る水準ですので、債務不履行に陥る可能性は限りなく低いでしょう。
日本と同様、外国人の国債保有を少なくしています。
以下は銀行の不良債権比率ですが、2017年9月時点で10%を超えており高い水準にあります。
企業の貸し渋りが起き出すと、経済成長の歯止めをかけることになりますので、ここは要注意ポイントです。
政治面ではモディ政権が長期安定政権を継続している
国の経済成長を軌道に乗せ、継続していくにも安定した政治が必要です。
モディ政権は2014年から現在2022年まで長期政権を構築しています。
モディ首相が就任し政権交代してからは、規制緩和により海外からの直接投資も増加、税制度も整理され始めました。
モディ首相が実施した主な政策として、インド独立後最大の税制改革「GST」の導入があります。
3-1|GSTの制度概要
物品税や付加価値税など17の税(Tax)及び福祉など特定目的の23の課税(Cess)がGSTに統合、多種多様の課税対象は物品・サービスの供給(取引)に統一された(図表5)。もっともアルコール税、印紙税などの間接税は現状を維持し、GSTとは別途課税されることになっており、全ての間接税がGSTに統合された訳ではない。引用:ニッセイ基礎研究所
インド中央政府はこれまで、
- 物品税
- サービス税
- 中央サービス税(州を跨ぐサービス)
と、上記3つの課税をする「権利」を有していました。
しかり、これに加えて「各州政府」もVAT(Value added tax=消費税)の課税する「権利」がありました。
企業にとっては課税主体や、地域によっては税率が異なり逐一確認する必要があるなど手間や混乱の部分で大きく企業成長を阻害していました。
これを経済成長の足枷となる問題と捉え、GST、つまり税率の統合を2017年に実行しました。
コロナ以降の施策としては以下を実施してうまく舵を切っています。
20年3月以降、モディ首相は「自立したインド」を掲げ、零細企業や農民への金融支援、生産連動型補助金(PLI)など、国民各層向けに4度の経済対策パッケージを実施した結果、小売売上高等に回復の兆しもみられる。また、改正労働法などを成立させ、外国資本を呼び込みながら、製造業の振興と農民所得の向上により経済を強化する路線を維持している。
参照:経団連
今後も強いモディ首相の強いリーダーシップのもと力強い経済成長を支えることが期待されます。
むすび
本記事ではインドの概要、経済成長率、人口など基本的な情報を解説してきましたが、
ポイント
- 人口は14億人(2022年時点)と、大国中国に次ぐ二位であり、労働人口数、総人口が今後も増え続け、2060年時点で17億5000万人となることが予想されている。
- 理想的な人口ピラミッドの形であり今後の経済発展のポテンシャルが高い。
- 全体としての教育水準はまだまだ低い実態がありますが、富裕層の子息は確りと教育されている。
- かつてはイギリスの植民地であったことから、英語を公用語とし、欧米の外資系ともパートナーシップを組みやすい点がある。
- 産業別GDPは不動産・金融・その他のサービス業が中心となっており、経済成長に寄与している。
- 民間消費=個人の消費が拡大しており、内需の拡大による経済成長をしている。
- 新興国にしてはまだまだ総固定資本形成比率が低い。
- 税をうまく国民から徴収できておらず若干財政には不安がある
- 経常収支はプラスに転じている
- 政治は長期安定政権であるモディ首相のもと非常に安定している
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