これまでも様々な新興国株式市場について解説してきましたが、今回はブラジルを取り上げたいと思います。
ブラジルと言えば、2000年代前半は大きな経済発展を遂げ、中流階級層が増加しましたが、度重なる政治の汚職が取り沙汰され、経済成長にブレーキをかけている印象が強いですよね。
私も長期出張でブラジルを訪れ2ヶ月ほど滞在したことがあるのですが、国民の政府へのデモで道が封鎖される場面などを目にしてきました。
そんなブラジルに株式投資を検討する価値があるのかどうか、経済分析を通してみていきましょう。
ブラジル概況
まずはブラジルの一般概要と経済概要をそれぞれ把握しましょう。
ブラジル一般概況
国・地域名 | ブラジル連邦共和国 Federative Republic of Brazil |
面積 | 851万5,767平方キロメートル(日本の約22.5倍) |
人口 | 2億1,161万人(2020年予測値)出所:ブラジル地理統計院(IBGE) |
首都 | ブラジリア 人口:447万人(2018年) 出所:国連推計 |
言語 | ポルトガル語 |
宗教 | 主にカトリック |
引用:Jetro
ブラジルの土地面積は日本の約22.5倍と巨大です。豊富な資源、食糧があり、経済が成長していく素地は抜群に備えています。課題は国民性と政治の汚職でしょう。
気候は南地方は夏と冬がしっかりあり、北地方は年中夏です。ここで一つ面白いのが、南に向かえば向かうほどブラジルの教育のレベルが高くなり、北は貧困街が多く、教育レベルが著しく低いことです。
元々はポルトガルがインディオしかいなかったブラジルを侵略し、共生を始め、その後もヨーロッパ、日本を始めとしたアジアからの移民も増え、国民の肌の色は十人十色、価値観も全く異なる人々で構成された国であり、日本とは真逆です。
移民が進む際に、ヨーロッパからの移民が南地方を中心に増えたため、教育レベルが高く、富裕層が多い地域となりました。
個人的にですが、やはり季節の気温の変動がある地域の方が頭を使う場面が多く、それも関係していると思っています。北は暑く、海、海、海で海水浴を毎日楽しんでいるだけの国民が私がいくつもの地方を周った際に多い印象が残りました。
ブラジル経済概況
項目 | 2019年 | 2020年 | 2021年 |
実質GDP成長率 | 1.2(%) | △3.9(%) | 4.6(%) |
名目GDP総額 | 7,389(10億レアル) | 7,468(10億レアル) | 8,679(10億レアル) |
一人当たりの名目GDP | 8,898(ドル) | 6,797(ドル) | n.a. |
鉱工業生産指数伸び率 | △1.1(%) | △4.5(%) | 3.9(%) |
消費者物価上昇率 | 4.3(%) | 4.5(%) | 10.1(%) |
失業率 | 11.1(%) | 14.2(%) | 11.1(%) |
(備考:失業率) | 年計は第4四半期値 | 年計は第4四半期値 | 年計は第4四半期値 |
輸出額 | 221,127(100万ドル) | 209,180(100万ドル) | 280,815(100万ドル) |
(備考:輸出額) | 通関ベース | 通関ベース | 通関ベース |
対日輸出額 | 5,432(100万ドル) | 4,127(100万ドル) | 5,539(100万ドル) |
(備考:対日輸出額) | 通関ベース | 通関ベース | 通関ベース |
輸入額 | 185,928(100万ドル) | 158,787(100万ドル) | 219,408(100万ドル) |
(備考:輸入額) | 通関ベース | 通関ベース | 通関ベース |
対日輸入額 | 4,740(100万ドル) | 4,191(100万ドル) | 5,146(100万ドル) |
(備考:対日輸入額) | 通関ベース | 通関ベース | 通関ベース |
経常収支(国際収支ベース) | △65,030(100万ドル) | △24,492(100万ドル) | △27,925(100万ドル) |
貿易収支(国際収支ベース、財) | 35,199(100万ドル) | 50,393(100万ドル) | 61,407(100万ドル) |
(備考:貿易収支(国際収支ベース、財)) | 通関ベース | 通関ベース | 通関ベース |
金融収支(国際収支ベース) | △64,357(100万ドル) | △12,473(100万ドル) | △33,706(100万ドル) |
直接投資受入額 | 69,174(100万ドル) | 37,786(100万ドル) | 46,441(100万ドル) |
(備考:直接投資受入額) | フロー、ネット。親子会社間の資金貸借を含む | フロー、ネット。親子会社間の資金貸借を含む | フロー、ネット。親子会社間の資金貸借を含む |
外貨準備高 | 356,884(100万ドル) | 355,620(100万ドル) | 362,204(100万ドル) |
(備考:外貨準備高) | 金を含む、期末値 | 金を含む、期末値 | 金を含む、期末値 |
対外債務残高 | 322,985(100万ドル) | 310,807(100万ドル) | 325,440(100万ドル) |
政策金利 | 4.50(%) | 2.00(%) | 9.25(%) |
(備考:政策金利) | 期末値 | 期末値 | 期末値 |
対米ドル為替レート | 4.03(ブラジルレアル) | 5.20(ブラジルレアル) | 5.58(ブラジルレアル) |
(備考:対米ドル為替レート) | 期末値 | 期末値 | 期末値 |
引用:Jetro
2020年はパンデミックの影響によりGDP成長率はマイナスとかなり厳しい状況です。
しかし、2021年はその反動で+4%程度となっています。
ブラジル地理統計院(IBGE)は3月4日、2021年の実質GDP成長率が前年比4.6%と発表した(添付資料表参照)。産業別にみると、農畜産業が0.2%減、工業が4.5%増、サービス業が4.7%増で、工業とサービス業が押し上げ要因となった。
そもそもブラジルはパンデミック前より成長率が1%程度と低迷しており、新興国の中では相当体たらくな結果となっています。
一人当たりGDPも8,679ドルとなっています。2018年以前は10,000ドルあり、わかりやすく中所得国の罠である10,000ドルの水準で停滞しています。
先進国になれる器の国では、多分ないのでしょう。
ブラジルのGDP成長率の推移(メキシコ、ロシアと比較)/GDPに占める需要成長寄与度
非常に成長率にばらつきがある国です。原油、穀物、資源価格次第で成長率が変わる国ですので、新興国の内需パワーで経済成長爆発、という投資対象を探している筆者からすれば、魅力に欠ける国です。
次に、ブラジルの需要面からみた経済成長寄与度です。
2020年はパンデミックでしたので、個人消費が大幅に下がりGDPを引き下げました。現在は資源高などもあり、資源国であるブラジルでも純輸出のみがGDPに寄与している状況です。
この個人消費が今後しっかりと復活していくかどうか、資源高がどこまで続くかが勝負の分かれ目になってきそうです。
とはいえパンデミック前も2018年以降、個人消費が縮小していましたので、パンデミックが終わってもこちらが抜群にGDP成長に寄与してくるかどうかについては疑問です。
人口動態
今後の経済成長を測る上で最も重要な指標である人口構成をみていきましょう。
東南アジアのフィリピンやインドほど魅力的な人口ピラミッドの形ではありませんが、しばらくは労働人口が増え、需要・供給も増加することが見込まれますね。とはいえ先細っており、先行きは暗いです。
現状は「BRICS」(ブラジル、ロシア、インド、中国)の中で考えると、インドに次ぐ2位と言える良い形です。
上記で述べましたが、ブラジルは2021年の一人当たりGDPが8,679USDとなっており、2017年に中所得国の罠である一人当たりGDPの10,000USDに差し掛かったタイミングで後退しています。
今後の成長には、「労働集約型産業」から「知識集約型産業」への転換が不可欠であり、それには「国の教育水準」が重要になります。
ブラジルの識字率は2010年時点で90%を超え、世界平均である85.9%を上回っている状況でした。識字率が著しく低いペナンやセネガル(40%程度)などに比べると、想像以上に教育レベルは高く、産業のシフトへの足枷になるほどではないといえます。
ブラジルの貿易相手
ブラジルの貿易、輸出入先と製品内訳(2017年)は以下の通りとなっています。
輸出相手国 | 中国 21.8% アメリカ 12.5% アルゼンチン 8.1% オランダ 4.3% |
輸入相手国 | 中国 18.1% アメリカ 16.7% アルゼンチン 6.3% ドイツ 6.1% |
輸出品目 | 輸送機器、鉄鉱石、大豆、履物、コーヒー、自動車 |
輸入品目 | 機械、電気・輸送機器、化学製品、石油、自動車部品、エレクトロニクス |
輸出品は大豆、鉄鉱石、原油が当然のように大半を占め、その先は中国・アメリカと世界の2大国となっており、世界情勢に振らされやすいとはいえ安定供給先といえます。
(1)輸出一次産品 49.7%(大豆,鉄鉱石,原油等),工業製品 36.1%(乗用車,航空機,商用車等),半製品 12.7%(粗糖,木材パルプ,鉄鋼半製品等)
(2)輸入原材料及び中間材 57.9%(工業原材料,資本財付属品,輸送用機器付属品等),消費財 14.1%(医薬品,食料品,家庭用機械器具等),石油及び燃料 12.2%,資本財 15.8%(工業用機械,輸送機器等)
ブラジル株式市場の展望は?
以下はブラジルの代表株価指数、ボベスパ指数です。2020年にコロナショックで大暴落し、その後一度は持ち直しましたが、現在は下落に転じ力無く彷徨っています。
新興国株としてのパワーが足りず、今後FRBの金融引き締め、インフレ収束、不況が来ることを考えると、ブラジル株を買う理由は見つかりません。
ブラジル株はどこで買える?投資信託、ETFは?
ブラジルの個別株は楽天証券を通して投資実行可能ですが「米国預託証券」(ADR)の制度を利用しており、取引手数料が往復で4%取られます。
ADR
American Depositary Receiptの略称で和訳は米国預託証券。「外国企業・外国政府あるいは米国企業の外国法人子会社などが発行する有価証券に対する所有権を示す、米ドル建て記名式譲渡可能預り証書」である。
ADRの預かり対象は、通常は米ドル以外の通貨建ての株式であるが、制度的にはあらゆる種類の外国有価証券でも可能である。
引用:野村証券
例えば金属資源の雄、バーレやペトロブラスなどは米国株市場で買えます。
ペトロブラスはまだタイミング合えば買えるチャンスありそうですが、難しいですね。あくまで短期トレード対象になると思います。資産を大きく増やしたい場合は中長期投資が必要です。博打ではダメです。
投資信託(ETF)は(NEXT FUNDS)ブラジル株式指数上場投信(東証:1325)があります。あまりお勧めしませんが、どうしても欲しい人は買うと良いでしょう。楽天証券で買えます。
まとめ
ブラジル経済について調べてきました。
新興国といえど既に一人当たりGDPは10,000ドル近く、中所得国の罠にハマりGDP水準は下がっており、先進国へのステップには乗れない国なのではないかと思っています。
株式市場もあれだけの金融緩和がありながらも、コロナショック前の水準を少し回復した時点で下落に転じており、2022年の金融引き締めが本格化するこのタイミングで、ブラジル株を購入するカタリストは筆者には見出せませんでした。もっといい国があると思います。