現在までASEAN各国の概要、経済状況などを執筆してきました。今回はASEAN諸国全体の概要について解説していきたいと思います。
この記事の執筆に至ったのは、今後も「ASEANの経済成長が見込まれる」「アセアン株への投資を考えている」という人は多いですが、実際にASEANの概要を語れる人は多くなく、説明も少し難しいことから、本ブログの情報を参考にしてもらいたいと思ったからです。
それでは概要から、順を追って解説していきます。
アセアン(ASEAN、東南アジア諸国連合)の概要
まずは「ASEAN」とはどのような意味でしょう。
「東南アジア諸国連合」のことであり、「Association of South East Asian Nation」のそれぞれ頭文字を取った呼称です。
ASEAN
東南アジア10か国から成るASEAN(東南アジア諸国連合)は,1967年の「バンコク宣言」によって設立されました。原加盟国はタイ,インドネシア,シンガポール,フィリピン,マレーシアの5か国で,1984年にブルネイが加盟後,加盟国が順次増加し,現在は10か国で構成されています。
2015年に共同体となったASEANは,過去10年間に高い経済成長を見せており,今後,世界の「開かれた成長センター」となる潜在力が,世界各国から注目されています。2017年に設立50周年を迎えました。
引用:外務省
すでに一部記載がありますが加盟国は以下の計10か国ですね。
このASEAN発足の経緯として、欧米・中国に貿易面で対抗する為に、地域内で連携して地域の経済規模拡大を目指しました。
ASEANは1967年に発足しました。
当初はベトナム戦争が勃発していた時期でもあり、米国が「東南アジア共産化」を危惧していたことから、米国が主導権を握る形で発足した政治色が強い地域協力の枠組みでもありました。
因みにベトナム戦争とは、インドシナ戦争後に南北に分裂したベトナムで発生した戦争であり、第二次インドシナ戦争とも呼ばれています。
ASEAN経済共同体(AEC:ASEAN Economic Community)
ASEAN発足後に、以下のような激動の時代の中で、ASEANもNAFTA(自由貿易協定)を発足しました。
- 米ソの冷戦が終焉、
- 社会主義市場経済導入による中国の台頭、
- 1993年にはEU発足、
- 1994年はNAFTA発足、
域内関税の引き下げと域内貿易の自由化を活性化し、海外からの投資誘致・産業競争力向上を目指しました。
正確に理解するために、少し言葉の定義を把握しておきましょう。
社会主義市場経済
中国で唱えられている新たな経済方式。元来の計画経済・統制経済としての〈社会主義〉に市場経済のメカニズムを導入したもの。
ここで〈社会主義〉とは資産の公有制を意味し,〈市場経済〉とは市場の価格の調整機能を活用するという意味である。
中国では1993年に憲法を改正し,従来の〈社会主義公有制を基礎とする計画経済〉という規定を〈国家は社会主義市場経済を実施する〉と改めた。
実際には,中央に集中していた決定権の多くを地方政府・国有企業・個別農家などに移す〈分権化〉と,生産計画・価格決定・流通などを市場メカニズムに委ねる〈市場化〉が核となっている。ベトナムの〈ドイモイ(刷新)〉政策も同様の方向に向かっている。
引用:社会主義経済とは
EU
1992年のマーストリヒト条約により生まれた国際機構。欧州連合と呼ばれる。主に欧州経済共同体(EEC)、欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)、欧州原子力共同体(EURATOM)の3つの集合共同体、欧州共同体(EC)を核に構成されている。
EU圏内は外交、安全保障、経済・通貨、社会の各分野の統合により、域内取引の障壁を撤廃、貿易の自由化を実現するとともに、2002年には単一通貨ユーロが発足し、現在アメリカに次ぐ一大経済圏を形成している。最高決定機関は各国の閣僚級の代表者で構成された理事会で、本部はベルギーのブリュッセルに置かれ、加盟国数は25カ国。
引用:EUとは
NAFTA
北米自由貿易協定(North American Free Trade Agreement,NAFTA)のこと。関税や数量制限など自由な貿易を妨げる障壁を撤廃するために複数国間で締結する自由貿易協定(FTA)として1994年1月に米国、カナダおよびメキシコの北米3カ国間で発効した。
NAFTAの締結により3国の貿易品目の全ての関税が2008年1月に撤廃され、金融市場の自由化や知的所有権の保護が進んだ。農産物輸出大国の米国にとっては輸出の拡大といったメリットがある一方で、自動車などの生産拠点が他国に移ってしまうなどのデメリットもある。
引用:NAFTA(なふた)
2002年には、ASEAN先行加盟国6カ国である、以下の国々で初期は2015年までを期限としていました。
しかし、2008年→2002年と前倒しで共通有効特恵関税(CEPT)0-5%を達成しました。
- タイ、
- マレーシア、
- インドネシア、
- フィリピン、
- シンガポール、
- ブルネイ、
CEPT
ASEAN自由貿易地域(AFTA)を実現するための関税システムのことで、ASEAN域内で生産された農工業製品を域内輸出際の関税を段階的に引き下げ、2015年までに0〜5%までに下げることを目標とした域内特恵関税のことで、ASEAN加盟国(10ヵ国)いずれかの原産である原材料、部品等が40%以上あれば、ASEAN原産品とみなされ、CEPTの適用が受けられる。
引用:共通有効特恵関税
2003年にはAECを2020年までに発足する目標を立て、2015年に前倒しで発足しました。
ASEAN経済共同体(AEC:ASEAN Economic Community)とは、ASEAN加盟10カ国(インドネシア、カンボジア、シンガポール、タイ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、ラオス)が一つの経済圏となること。通貨統合は目指さず加盟国の主権を優先する一方、関税を撤廃し、サービスや投資の自由化などを図ることとしている。2015(平成27)年11月21日のASEAN首脳会議で確認され同年末に発足した。
引用:ASEAN経済共同体
金融政策・通貨統合無しの欧州連合(EU)を発足したようなものですね。
ASEAN先行6カ国であるタイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン、シンガポール、ブルネイは関税の99.2%を撤廃完了、他4カ国の関税は90.9%撤廃完了しています。
今後の流れとしては2025年までに、以下のような政策の実現を目指しており、更なる経済発展が見込まれますね。
- 更なる関税引き下げ、
- 域内貿易手続き簡素化(輸出規制・ライセンス制度等)、
- 海外からの投資規制緩和、
- 熟練労働者の移動の促進、
ASEAN=FTA(自由貿易協定)先進国
上記はASEAN域内での関税撤廃(AFTA)の解説をしてきました。
では域外の状況はどうでしょう。
ASEANは域外の国に対してもFTAを積極的に締結しています。
想像に難くないですが、製造業と言えば大きな割合がASEANで生産していますよね。
中国に始まり、人件費の高騰から新興国に拠点がどんどん移っています。この流れで、海外からの直接誘致・輸出を促進してきました。
ASEANのFTA締結の流れは、以下の通りで2010年には日本とインドを起点とし「アジア・オセアニア地域」でFTAを拡大させました。
- 2005年:中国、
- 2007年:韓国、
- 2008年:日本、
ASEAN主要国のFTAカバー率はすでに6割を超え、米国を上回っています。現在はASEAN一部の国が含まれるTPP、RCEPなど経済連携は強化されていくばかりですね。貿易立国の韓国はやはり高い数値を誇りますね。
引用:JETRO
以下の図は現時点での経済連携の状況を地図にしたものです。
引用:経済産業省
続いて以下の図はFTAカバー率の2016年までの統計です。(おそらく最新データ)余談ですが日本は発行済FTAが22.3%と貿易依存と言われている割には比率が少ないのです。
引用:FTA・EPAカバー率
ASEANが貿易連携を促進することで得るメリットとしては、例えば、
フィリピンで日本からトヨタ自動車や日産などの自動車部品を輸入→現地工場で最終工程・組み立てを実施→ミャンマーに輸出
これがASEAN域内の物品貿易協定で定めている「原産地規制」の範囲内であれば、
「ASEAN域内生産品」
として特恵関税の対象となり、関税を抑えられるということです。
「原産地」とは、国際的に取引される商品の国籍を指します。この「国籍」を決定するためのルールのことを原産地規制と言います。
FTA原産地規制はFTA域内の締約諸国間の貿易に適用され、FTAのある締約国で生産された商品が他の締約国に輸出される場合は、輸入国は輸入品がFTA原産地規制の条件を満たしているかを確認します。
輸入品がFTA原産地規則に適合する場合はWTO(世界貿易機関)関税率よりも低い特恵関税を与えられ、条件を満たさない場合はWTO関税率を課されることになっています。
ASEANは日本を始めとして、欧米、中国など大国との貿易取引活性化で経済成長を目指しており、「輸出拠点」として撃って出るために域外・域内の経済連携を強化しているんですね。
中南米・中東などへの投資が滞る中、資金流入が止まらないASEAN対内直接投資
ASEAN地域の工業化・産業集積に貢献してきた域外企業の直接投資はまだまだ拡大しており、2015年の対内直接投資額は約1,250 億ドルとなっています。
中南米・中東などへの直接投資は年々減少傾向にありますが、ASEANは拡大し続けているのが魅力ですね。
ASEAN への直接投資で大きく割合を占めるのが日本なんですね。2015年までの5年間累積で実に約820億ドルと最大です。ASEANを牽引する存在となっているのが特徴です。
2022年時点の速報値は以下です。
日本の財務省は2月8日、2021年の日本の対外直接投資統計(速報値)を公表した。同年における日本の対ASEAN直接投資額(ネット、フロー)は、前年比57.6%増の3兆1,082億円と伸長した。シンガポール、ベトナム、マレーシアなどへの投資が拡大した。日本の対外直接投資(世界全体)は0.4%減の16兆2,547億円と横ばいだったが、対米国(49.7%増、6兆6,324億円)と並び、ASEANは日本の直接投資の牽引役となっている。
日本の対外直接投資全体に占める構成比としては、ASEANは19.1%と、太宗を占めた米国(40.8%)に比べて半分程度だったが、EU(8.6%)の2.2倍、中国(6.6%)の2.9倍の規模となった。
対内直接投資は、1990年代まで日系を始めとした外資系製造業の先進国への輸出を目的とされていましたが、2000年を過ぎた頃から、ASEANの「内需向け」の製造業・サービス業への投資が活発になりました。
例えば、
- タイ→自動車関連向け投資の増加
- インドネシア→製造業、サービス業向け投資の増加
- フィリピン→新政権による治安改善政策向け投資の増加
といったような対内投資が増えているのです。
加えて、ASEANの中でもまだまだ低賃金であり今後の経済発展の余地が大きい以下の4ヶ国を指す「CLMV」諸国への対内直接投資の増加が見込まれています。
- カンボジア、
- ラオス、
- ミャンマー、
- ベトナム、
CLMV
東南アジア諸国連合(ASEAN)の中で先発ASEAN(シンガポール、ブルネイ、マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン)に比べて比較的経済開発の遅れた後発ASEANと呼ばれるカンボジア(Cambodia)、ラオス(Laos)、ミャンマー(Myanmar)、ベトナム(Vietnam)の4か国のことで、労働賃金など経済的な格差が周辺国との間にあり、この点では産業の競争力を強めたい企業にとっては産業立地国として魅力的であり、東南アジアの最後のニューフロンティアとして注目を集めている。
特にカンボジア、ラオス、ミャンマーのCLMは、安価な労働力とタイにある産業集積地を結び付けることによって、「タイプラスワン」という新しいビジネスモデルを創設する可能性が高まっている。
楽天証券で買えるアセアン株
経済状況について理解した上で、一応ここでアセアン株はどのように購入すべきかだけ記しておきます。
経済状況が良いのは大前提で、株式市場の状況も見る必要があることは認識しておいてください。
楽天証券で「総合口座」を開設する必要があります。国内手数料は約定代金の1.1%(税込)、最低手数料は550円(税込)となっています。世界中の株式を手数料数%で買えるようになったことに幸せを感じますね。
楽天証券は、アセアン株式の取り扱いがある数少ない証券会社の一つです。
日本にいながら、アセアン主要4市場(シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシア)の株式に投資できます。
上記のシンガポール、タイ、マレーシア、インドネシアについては別途記事を作成していますので、参考にしてみてください。
まとめ(株式市場の本格的な分析は後続記事へ)
ここまでASEANの概要、自由貿易協定、対内直接投資の解説を経て、今後の同地域の経済成長が見込まれることが理解できたかと思います。
次の記事では、実際に過去の経済成長から今の経済政策の動向から、今後ASEAN諸国は本当に経済成長するのか・投資対象になり得るのかどうかを「ASEANの現状を経済見通し」で検証していきます。
新興国投資を考えている方はぜひ読んでみてください。